川邊暁美のショート・コラム

「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。

相手に気持ちを向けることから

第8541号 2026年4月13日(月) [印刷用PDF

 4月は新入社員をはじめ、仕事で新たなステージに立つ方、改めてスキルに磨きをかける必要がある方などを対象にした研修に登壇させていただく機会が多く、筆者自身も刺激と新たな気づきをいただいている。

  ある新任管理職を対象にした研修のテーマは「報告・連絡・相談」だった。いまだにそんなことを、と思われるかもしれないが、時代が変わっても仕事を円滑に進めるために欠かせない職場でのコミュニケーションのカギとなるキースキルだ。

◆相手あっての報告、状況先読みが成果に

 最近は、報告をする際に生成AI(人工知能)に上司の性格や状況を打ち込み、AIが導きだした回答を叩き台に文章を仕上げるという話も聞く。それは効率的であるかもしれないが果たして効果的な報告となっているのだろうか。

  「5W3H」で要点を整理して話す、結論から先に話してから理由や経緯を説明する、事実と意見や推測を混同しない、などの基本スキルは生成AIもしっかり押さえてくれるはずだが、報告は一方的なものではなく、相手あってのことだ。それをいつ、どのように切り出すかを判断しなければならない。

  さらに報告はそこから展開していく。上司とのやり取りでの質問の意図やそれに伴う指示を正しく受け止め、対応していくことが求められる。相手の表情や言葉のニュアンスから類推したり、状況を少し先読みして動いたり、といったことが仕事の成果にも信頼関係を築くことにもつながる。

  先の研修では、新任管理職ならではの悩みも出された。慣れない、指示をする立場としての戸惑いだ。「自分は伝えたつもりでも伝わっていないことがあって困っている」という。

  聞けば、各セクションの主任を集めた場で共有したい事項を伝えているが、受け止め方にばらつきがあり、伝わっている現場もあれば、伝わっていない現場もあるという。主任の中には自分よりベテランの人もおり、厳しくは言えない、とのことであった。

◆管理職は「迷いなく動けるよう的確に」伝える

  筆者が伝えたのは、まず自分の中のリミッター(限界)を外す、ということ。立場が変わり、管理職となったのだから管理職としての役割を果たすことに躊躇(ちゅうちょ)することはない。

  厳しく言う必要はないが、指示をする立場として配慮したいのは、受け取った相手が迷いなく動けるよう的確に伝えることだ。そのためには、指示の目的、共有することの意味を明確に示した上で、どの範囲まで、いつまでに、どういうかたちで伝えるのかを具体的に指示する。

  「今からAプロジェクトの進捗状況についてお伝えします。このことは全セクションの業務と関連しており、皆に把握しておいてもらった上でそれに合わせて各業務を進めていただく必要があります。各セクションに持ち帰って必ず明日朝のミーティングで全員に書面で伝えるようにしてください。質問があれば各セクションでまとめて私までメールでお願いします」のように、だ。

◆伝える側の人間性、経験、共感力が大事

  何をなぜ伝えるのか、誰に伝えるのか、そして、相手との関係性や現状を鑑みて、それをどういうシーンで、どんな声のトーンで、どんな言葉で伝えればより伝わるのか。そこは伝える側の人間性や経験、共感力がものを言うところだ。

 生成AI相手に「壁打ち」して言語化力を鍛えるより、今ここにいる自分と相手に気持ちを向けて、出てきた言葉を大切にしたい。

 

2番目の悪者にならないために

第8494号  2026年2月3日(火) [印刷用PDF

 元日恒例ウィーン・フィルハーモニーのニューイヤーコンサートで指揮者のヤニック・ネゼセガン氏が世界に向けて発したメッセージにその演奏同様、強く心を打たれた。

 優しさこそが平和をもたらす、お互いへの優しさ、違いを受け入れ、祝福する優しさを持とうと呼びかけ、そして、音楽は私たちを一つに結ぶことができる。なぜなら、私たちはこの同じ惑星で生きている者同士だからだ、と結んだ。誰もが世界平和を願わずにはいられない2026年の年明けであった。

◆いきなりの衆院選、思い出した絵本

 日本ではいきなりの衆議院解散による選挙戦に突入した。今回の選挙でもSNSや動画サイトなどインターネット上に拡散する真偽不明の情報を否応なしに見聞きする。報道機関によるファクトチェックも行われているが、目にする情報に対して、これは正しいか?根拠は?発信元は?など考えながら読むのは結構疲弊する。有権者も大変だ。

 「もう、どうでもいいか」と、関心を失いかけたときに思い出したのが絵本「二番目の悪者」(2014年、小さい書房発行、林木林/作、庄野ナホコ/絵)だ。物語の冒頭は「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」という一文で始まっている。

  あらすじはこうだ。動物王国で次の王様を決めることになった。自分こそが王にふさわしいと思っている金のライオンは、ライバルである心優しい銀のライオンを蹴落とすために根も葉もない悪い噂を流す。

◆「嘘は向こうから巧妙にやってくる」

  最初は誰も信じなかったが、疑いながらも話題にすることでじわじわと悪い噂が広まっていき、やがて、真実として信じられるようになった。「火のないところに煙は立たないっていうからね」。銀のライオンは、誤解はいつか解けると思い、苦笑するのみ。その結果、金のライオンが王様に選ばれる。

 ところが、王になった金のライオンは好き勝手に国を治め、たちまち国は荒れ果ててしまう。動物たちは嘆く。「どうしてこの国はこんなことになってしまったんだろう」。頭上の雲がつぶやく。「本当に金のライオンだけが悪かったのか・・・?」

 タイトルにある「二番目の悪者」とは誰のことなのか。聞いた話を何となく仲間や家族に知らせたり、届いたメールを転送した動物たちか。転がるような勢いで噂は膨れ上がっていったが、悪意があったものは誰もいない。ただ、誰も自分の目で確かめようとしなかっただけ。銀のライオンも噂を否定せず、沈黙していただけ。一部始終を見ていた雲の声。「嘘は向こうから巧妙にやってくるが、真実は自ら探し求めなければ見つけられない」「誰かにとって都合のよい嘘が世界を変えてしまうことがある」「だからこそ、何度でも確かめよう」

◆無関心にならず、真実を見極め、選択する

 この絵本では、真実を見極める重要性とともに、無関心や沈黙の危険性も指摘されている。大人のためのボランティア朗読会でこの絵本を紹介したところ、参加者の1人がぽつりと「現代の怪談みたいですね」と感想を漏らした。妖怪や幽霊は出てこないが、確かにうすら寒い。しかし、冒頭の一文を思い返す。「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」

 ヤニック・ネゼセガン氏のメッセージにあった。平和とは、心の中の平和、周囲の人々との平和、世界中のすべての国々の間の平和だと。その一歩は無関心にならず、真実を見極め、選択することだ。

信頼される女性リーダーの話し方

第8448号 2025年11月21日(金) [印刷用PDF

 我が国で最も高い「ガラスの天井」を破って高市早苗首相が誕生してから1カ月。支持率は歴代屈指だという。若年層の支持が高いと聞いて、女子大の授業で高市首相をどう思うか尋ねてみたところ、「自民党総裁選での各候補のスピーチを聞いて、この人がなると確信していた」、「笑顔があって、親しみやすい」、「外交のときに堂々としていてかっこいい」、「国会答弁であいまいにぼかしたりせず、順序立ててきちんと話しているのがいい」など注目度が高く、中には「女性初がプレッシャーになって頑張りすぎないか心配」という声もあった。

◆サッチャー元首相、「常に低く、落ち着いた声」

 高市首相が目標としている政治家はマーガレット・サッチャー元英首相だとか。その影響だろうか、話すときの声のトーンを意識的に低くしているようだ。
 サッチャー氏は本来、高めの声だったが、常に低く、落ち着いた声を心掛け、自信と威厳に満ちた「鉄の女」を演出したと言われている。

 高市首相も第219臨時国会における所信表明演説では、冒頭からの執拗なやじにもひるむことなく、終始力強く落ち着いた声で約28分間を話し切った。普通はやじに心乱されないよう、感情を抑えたり声を強めたりすると、肩に力が入って喉が締まるために声がかれてきてしまうものだ。相当に鍛えていると感じた。

 聴覚障害者のための国際総合大会、デフリンピックの開会式では、満面の笑みをたたえ、明るめのトーンでゆっくり抑揚をつけて。北朝鮮による拉致問題についての記者会見では、低いトーンで一言一言、言葉を選ぶように丁寧に。経済財政諮問会議では、出席者全体に目線を配りながら真剣な眼差しでやや早口で。

このように、目的と対象、場所によって声や話し方、視線・笑顔などを切り替えている。各国首脳との会談では相手とアイコンタクトをしっかりと取りながら話すことで「意志の強さ」を、「笑顔で余裕」を感じさせた。

◆女性活躍、高市流から学ぶ

 男性が多数の組織で女性が活躍するために、高市流から学べることがたくさんある。まず、声のトーンと速さ。普段より低めのトーンでゆっくり話そう。胸に手を当て、そこに声を響かせるつもりで話すと落ち着いたトーンになる。

 高市首相の所信表明演説は1分間に273文字程度。呼吸を整えたり、キーワードに抑揚をつけたり、適切な間(ま)を取るなどの工夫ができる速さだ。言葉に思いが乗り、説得力が増す効果がある。また、一つの文を短く35~40文字程度にまとめ、文末を「です、ます」で言い切るように話すと、メッセージが明確になるばかりでなく、文末まで声を安定して保つことができ、信頼感につながる。

◆アイコンタクト・笑顔・姿勢で自分演出

 アイコンタクトと笑顔、姿勢にも学びたい。信頼関係を結びたい相手と話すときは手元の資料ではなく、相手の目を見て話そう。笑顔も織り交ぜると自信も演出できる。

 外国の首脳を迎えた際、背筋を伸ばし、やや大きめの歩幅で近づき、笑顔で握手をする首相の一連の立ち居振る舞いがとても堂々としていた。女性はチョコチョコ歩きがちだが、いつもより一足分、遠くへ足を出すつもりで歩くと良い。

 そう、「いつもより一歩遠く、一歩高く」の意識を持って自分を演出することが信頼を勝ち取る。


<バックナンバー>

タイトルをクリックするとPDFでご覧いただけます。

第8401号 2025.9.12 解きほぐして伝える
第8354号 2025.7.8 自分の声に耳を澄ます
第8307号 2025.5.1 ハラスメントにならない指導法
第8259号 2025.2.21 首相の対話力、スピーチ力、外見力
第8212号 2024.12.9 歩み寄りと対話を大切に
第8165号 2024.10.1 自分の言葉で語るということ
第8115号 2024.7.23 県知事のパワハラ疑惑に思う
第8067号 2024.5.20 聞く力が信頼を生む
第8019号 2024.3.11 聞き手を引きつける三つのスキル
第7972号 2024.1.4 好感度の上がる新年のあいさつ を
第7926号 2023.10.30 コロナ後のストレス管理 は呼吸から
第7881号 2023.8.28 日米韓首脳のスピーチ力
第7839号 2023.6.30 多様性前提のコミュニケーション能力
第7795号 2023.5.2 「熱い心」が聞き手に伝わる
第7752号 2023.3.14 女性リーダー育成のために
第7709号 2023.1.23 阪神淡路大震災、語り継ぐ使命感
第7665号 2022.11.21 「説明責任」は死語? 知らんけど
第7622号 2022.9.27 コミュニケーション勘を取り戻せ
第7583号 2022.8.4 羽生結弦が発した言葉
第7537号 2022.6.9 草木から色が出るように
第7499号 2022.4.18 性別による無意識の思い込み
第7456号 2022.2.18 「ウィズコロナ」でどう伝えるか
第7412号 2021.12.20 岸田首相の話し方に思う
第7373号 2021.10.26 声を磨く朗読の勧め
第7326号 2021.8.31 逆境から立ち直る力
第7285号 2021.7.8 WEB面接、採用担当は万全か
第7244号 2021.5.17 違和感が心に刺さる
第7202号 2021.3.18 言葉は澄んでいるか
第7161号 2021.1.28 リモート授業の忘れ物
第7117号 2020.11.19 見事!カマラ・ハリス氏のスピーチ
第7077号 2020.9.28 菅首相のキャラと話し方
第7033号 2020.7.30 心に響かない伝え方
第6981号 2020.5.22 オンライン映えする話し方
第6936号 2020.3.18 パニックを抑えたリー首相のメッセージ
第6886号 2020.1.9 安倍首相の話しぶり、5年前と比べると
第6841号 2019.11.5 クレーマーはこうしてつくられる
第6784号 2019.8.19 笑顔のシンデレラに学ぶプロ意識
第6690号 2019.4.15 聴衆を惹きつけて離さないために
第6734号 2019.6.12 トランプ大統領の「Reiwa」スピーチ
第6642号 2019.2.7 違和感満載の言い回し
第6586号 2018.11.14 高齢者に聞き取ってもらうには
第6535号 2018.9.6 「ハラスメント」と言われないために
第6483号 2018.6.28 女性活躍へ話し方改革を
第6432号 2018.4.18 ザッカーバーグの謝罪に見るスピーチ力
第6388号 2018.2.14 肝心なのはコミュニケーション力
第6352号 2017.12.18 共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉

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